
Naoto
漫画『瞬きもせず』レビュー 紡木たく/Taku Tsumugi
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There are English translations of the underlined words below.
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みなさんこんにちはNaotoです。
今回は僕が最近読んだ傑作と言われている漫画を紹介したいと思います。
今回紹介する漫画は紡木たくさんの「瞬きもせず」です。
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まずは wikipedia に頼りながら簡単に作者と作品紹介をしていきたいと思います。
「瞬きもせず」は紡木たくさんの作品で1987年から1990年にかけて連載していました。
僕が読んだのは文庫版で全4巻あります。
wikipediaによると少女漫画の世界に地方社会を取り入れた記念碑的作品だそうです。
地方に住む高校生の恋愛や家族関係、進路に悩む姿が描かれた作品で、多くの人から傑作と言われています。
「瞬きもせず」の舞台は山口県なんですが、作者の紡木さんは今作品の執筆中実際に山口県に移り住んでその風景や方言を作品に落とし込んでいたそうです。
僕は紡木さんは山口県出身の人なんだろうなぁと思って読んでいたんですが、wikipedia を見たら神奈川県出身と書いてあったのでびっくりしました。
山口県を訪れた時の空の青さや山々の美しさに感動して舞台を山口県にしたそうです。
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物語は高校に入学した主人公の小浜さんと同じクラスになったサッカー部の紺野君を中心にして進んでいくんですが、彼らのそれぞれの親友の美つ子さんと輝哉君も物語に大きく関わってきます。
また小浜さんの家族関係にもだいぶフォーカスしていて特にお父さんと一つ年上の兄の次男(つぐお)とおばあちゃんはこの物語に欠かせない存在になっています。
それぞれの関係性を軸にして別々のテーマの映画を作れるくらい家族における様々な問題をリアルにそしてドラマチックに描いています。
例えば序盤の紺野君がバイトしているカフェに小浜さんが家族で食べに行ったシーンでは、完璧とは言えない父に対する愛情と恥ずかしさが入り混じった感情をとてもリアルに描いていると思いました。
また後半では、東京に行くことを最後まで許さない父と最後には許してしまう母の対比が描かれていて、正しい愛情のあり方を提示しているようにも見えましたし正解の無さを提示しているようにも見えました。
あと、おばあちゃんがボケて次男のことを忘れてしまうこともとても印象に残っています。
読んでいた時はとても悲しかったんですが、いつかすべてを忘れてしまうかもしれないからこそ一日一日を大事にしないといけないというとてもポジティブなメッセージが込められていると思いました。
ちなみに一日一日を大事にしないといけないということをお父さんも酔っ払いながら言っています。
この言葉が「瞬きもせず」というタイトルに繋がっているのかなぁとも思いました。
もちろん紺野君がいるサッカー部の話も物語の主軸になっています。
紺野君と監督がいろいろな事件を通じて徐々に信頼関係を築いていく様子も大きな読みどころになっていると思います。
それぞれの関係性において描かれる感情の細かさとその豊富さに驚かされました。
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ではここからは「瞬きもせず」の特徴や僕が好きなところを紹介していきたいと思います。
まず一つ目はなんといっても圧倒的な画力とセンスです。
セリフがない最初の1ページとその次の見開き2ページを読んだだけで完全に漫画の世界に入り込んでしまいました。
その3ページだけで僕の中では傑作ということが確定しました。
みなさんも下のリンク先で見れますので是非見てみてください。
最初の1ページでは野球部がボールを打つ音と蝉の鳴き声が聞こえる田舎の学校の周辺が描かれているんですが、この1ページだけでも漫画の中に確実に世界が存在していると思わせるほどの説得力を感じました。
芸術にはあまり詳しくないんですが、印象派の絵のような美しさも感じられました。
そして問題の次のページです。
階段を登り切ったところに一人立っているスカート長めの女子生徒、蝉の鳴き声、射し込む光、山、どうしていいかわからないような手の角度。
このページを見たとき、奇跡的な瞬間に立ち会ったような、神聖な瞬間を覗いてしまったような、そんな感動と衝撃を受けました。
物語が全く語られないまま絵がすべてを語っているような、そんな奇跡的なタイトルページだと思いました。
その後も風景画と言ってもいいようなコマが全編に渡って要所要所に挿入されていて、何度もページをめくる手が止まりました。
最近覚えた単語を使うと、自然を描く「バルビゾン派」の絵画の中に物語を入れたような作品だと思いました。
物語を伝えるために風景が描かれているのではなく風景を伝えるために物語が描かれているとも言えると思います。
実際に「瞬きもせず」と紡木さんのほかの代表作「ホットロード」のイラストを厳選した絵本も出ています。下のリンク先で少し見れますのでぜひ見てみてください。
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では「瞬きもせず」の好きなポイントを2つ目です。
二つ目は横書きのモノローグです。
他の作品にももちろん横書きのモノローグは使われていると思うんですが、ここまで徹底してほぼすべてのモノローグを横書きにしている作品を初めて見ました。
実際に物語は「キラキラ してる」という横書きのモノローグから始まります。
この作品の中で横書きの文字は主人公小浜さんの心の声になったり、誰かに向けた手紙のようになったり、小浜さんの無意識が紡ぎ出した詩のようになったりします。
吹き出しの中のセリフはもちろん縦書きなんですが、モノローグと混在しても全く読みづらくなく、他の少女漫画と同じように詩とドラマを同時に体験しているような感覚になりました。
倒置法を使って間隔をあけて書かれている詩のようなモノローグもあり、
例えば「残酷なほど 気づかず」というモノローグかいきなり出てきてどういう意味なんだろうと思って2ページ前に戻ると、「今日もキモチがいっぱいふる 彼のかみや 彼の肩」というモノローグと繋がっていることがわかるというようなこともありました。
モノローグとマッチする絵が描けて、さらにコマのレイアウトのセンスがないとこういう縦書きと横書きが混在するスタイルは難しいだろうなと思いました。
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では「瞬きもせず」の好きなポイント3つ目です。
3つ目は小浜さんの心臓の音、心音のオノマトペです。
心臓の音のオノマトペの代表格はドキドキやドクドクなんですが、「瞬きもせず」では心音のバリエーションが多く、ドクンドクンの1段階下のトクントクンも出てきます。
読者にしか聞こえないこのトクントクンが出てくるたびに完全に僕の気持ちも小浜さんに同化してトクントクンしていました。
風景画のような画力で漫画の中に没入し、モノローグと心音によって完全に小浜さんと一体化してしまいました。
ちなみに紺野君とケンカした時はドクドクからズキズキに変わっています。
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では最後に僕の好きなシーンを2つ紹介したいと思います。
一つ目は車が行き交う交差点の真ん中で小浜さんが紺野君に東京に一緒に行けることを伝えるシーンです。
すごいドラマチックな場面で、映画化したら絶対カメラが2人の周りを回るだろうなぁと思いました。
これから待ち受ける社会の荒波と二人の世界の儚さを暗示しているようにも見えてとても印象に残っています。
二つ目はホームで紺野君が小浜さんにキスするシーンです。
あえてカメラを引いて小浜さんを見せないコマは男の僕もドキっとしましたし、演出面から見てもさすがだなぁと思いました。
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あまりストーリー自体には触れませんでしたが、作品の魅力が少しでも伝わっていたら嬉しいです。
この作品には甘酸っぱい恋心はもちろんのこと、意図せず相手を傷つけてしまった時の後悔や思いを伝えられないもどかしさや家族との衝突、将来への不安、希望など彼ら二人の青春のすべてが詰まっています。
そして描かれている風景は確実にこの本の中に彼らの世界が存在していることを訴えかけてきます。
興味を持った方はぜひ小浜さんと心音を重ねて彼女の高校生活を追体験してみてください。
これからも傑作と言われている漫画や僕が衝撃を受けた漫画などいろいろ紹介していきたいと思います。
この動画のスクリプトとその中の難しい単語の英訳も下のリンク先で見ることができますのでぜひ見てみてください。
ではまた次回お会いしましょう。
じゃねぇ。
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[1]
傑作(けっさく) masterpiece
瞬き(まばたき) blink
~せず(に) ≒ ~しないで without doing~
[2]
頼る(たよる) rely on/depend on/use
作品(さくひん) work
~にかけて through/from-till-
連載(れんさい)する serialize
文庫本(ぶんこぼん) mass-market paperback/pocket edition
全(ぜん)~ in total/all together
~巻(かん) volume~
少女漫画(しょうじょまんが) girls manga/Shojo manga
地方(ちほう) countryside/rural area/district
取り入れる(とりいれる) incorporate/accept/adopt
記念碑(きねんひ) monument
~的(てき) like~/kind of~
恋愛(れんあい) romance
進路(しんろ) course (of future life)
悩む(なやむ) be worried/be troubled/be distressed
姿(すがた) stance/state/appearance/figure
描く(えがく) draw/paint/depict
舞台(ぶたい) scene/setting/stage
作者(さくしゃ) author/writer/drawer
今(こん)~ this~
執筆(しっぴつ)する write
実際(じっさい)の[に] actual[ly]
移り住む(うつりすむ) move/emigrate/immigrate
風景(ふうけい) scenery/landscape
落とし込む(おとしこむ) put into/add/apply
びっくりする be surprised/astonished
訪れる(おとずれる) visit
山々(やまやま) mountains
感動(かんどう)する be moved[impressed]
[3]
物語(ものがたり) story
入学(にゅうがく)する enter a school
主人公(しゅじんこう) protagonist/main character
それぞれの each/respective
親友(しんゆう) close friend/best friend
関わる(かかわる) have to do with/be concerned with
~にフォーカスする focus on~
特に(とくに) especially/particularly
年上(としうえ) older/senior
欠かす(かかす) miss/fail
欠かせない essential
存在(そんざい) existence
~性(せい) -ty/-ity/-ness/-cy
軸(じく) axis/center
別々(べつべつ)の separate/respective
テーマ theme
~くらい(…)(N3) to the extent that~/so much…that~
~における in/at/on/as for/regarding/with regards to
様々(さまざま)な various/diverse
リアルに realistically
ドラマチックな dramatic
序盤(じょばん) the early stages/the beginning
完璧(かんぺき)な perfect
~に対する(たいする) toward~/on~
愛情(あいじょう) love/affection
入り混じる(いりまじる) mix/be mixed
後半(こうはん) latter half/second half
許す(ゆるす) forgive/allow
対比(たいひ) contrast/comparison
在り方(ありかた) the way something ought to be/the (current) state of things
提示(ていじ)する show/present/propose
ボケる/ぼける get senile
印象(いんしょう) memory/impression
残る(のこる) be left /remain
~こそ the very~[emphasize preceding word]
込める(こめる) put (emotion) into
ちなみに as a side note/by the way
酔っ払う(よっぱらう) get drunk
繋がる(つながる) be connected/be related
主軸(しゅじく) linchpin
監督(かんとく) coach/director/manager
事件(じけん) case/affair/incident
~を通じて(つうじて) through~
徐々(じょじょ)に gradually/slowly
信頼(しんらい) trust/confidence
築く(きずく) build up/make
読み所(よみどころ) good points/highlight
~において at/in/on/as to [for]
細かい(こまかい) subtle/small/detailed
豊富(ほうふ)な rich/abundant
[4]
特徴(とくちょう) feature/characteristic
何と言っても(なんといっても) After all
圧倒的(あっとうてき)な overwhelming
画力(がりょく) drawing ability
センス sense/taste
セリフ line/phrase
見開き(みひらき) spread/facing pages
完全(かんぜん)に fully/completely
入り込む(はいりこむ) go [get] into
確定(かくてい)する decide/settle on/fix
リンク先(さき) linked page
蝉(せみ) cicada/locust
鳴き声(なきごえ) cry/roar/chirp/tweet/bark/whine
~の周辺(しゅうへん) around~
確実(かくじつ)に for certain/without fail
~ほど(…)(N3) to the extent that~/so much…that~
説得力(せっとくりょく) persuasiveness/persuasive power
芸術(げいじゅつ) art
~に詳しい(くわしい) be familiar with
印象派(いんしょうは) impressionism
~きる(N3) do something completely to the end
~め -ish/a little
射し込む(さしこむ) shine in
角度(かくど) angle
奇跡的(きせきてき)な miraculous
瞬間(しゅんかん) moment/instant
立ち会う(たちあう) attend/be present/witness
神聖(しんせい)な sacred
覗く(のぞく) look/peep/peek
衝撃(しょうげき) shock/impact
語る(かたる) narrate/tell/talk
~まま as it is/same as~/with~/keep~/while~
風景画(ふうけいが) landscape painting
コマ panel/frame [in manga]
全編(ぜんぺん) the whole book[story]
~にわたって throughout~
要所要所(ようしょようしょ) every important point
挿入(そうにゅう)する insert
めくる flip/turn/leaf
ページをめくる turn a page
バルビゾン派 Barbican School
絵画(かいが) painting/drawing
伝える(つたえる) tell/convey/express
代表作(だいひょうさく) representative work/one's masterpiece
厳選(げんせん)する select carefully
絵本(えほん) picture book
[5]
モノローグ monologue
徹底(てってい)する be thorough
ほぼ almost /nearly
キラキラ sparkling/glistening/twinkling
向ける(むける) turn towards/point
無意識(むいしき) unconsciousness
紡ぎ出す(つむぎだす) spin (a tale)
詩(し) poem/poetry
吹き出し(ふきだし) speech bubbles
混在(こんざい)する be mixed/be intermingled
体験(たいけん) experience
感覚(かんかく) sense/sensation
倒置法(とうちほう) inversion/anastrophe
間隔(かんかく) interval/space
残酷(ざんこく)な cruel/brutal/merciless
いきなり suddenly/abruptly
肩(かた) shoulder
マッチする match/go well with
さらに furthermore/moreover
[6]
心臓(しんぞう) heart
心音(しんおん) (sound of one's) heartbeat
代表格(だいひょうかく) symbol/representative
バリエーション [different] variations
段階(だんかい) level/rank/stage/phase
読者(どくしゃ) reader
~たびに(N3) every time/whenever
同化(どうか)する assimilate
没入(ぼつにゅう)する be absorbed [immersed] in
~によって by~
一体化(いったいか)する unify
[7]
行き交う(いきかう) come and go/go back and forth
交差点(こうさてん) crossing/intersection
場面(ばめん) scene
~化(か)する be made into~
待ち受ける(まちうける) await
荒波(あらなみ) angry [wild, raging, violent] waves/hardships
儚い(はかない) fleeting/transient/short-lived/momentary
暗示(あんじ)する suggest/imply
ホーム platform
あえて intentionally/dare (to do something)/venture
ドキっとする (one’s heart) beat fast/throb/feel butterflies in one's stomach
演出(えんしゅつ) production/direction
面(めん) aspect/side/field
流石(さすが) as one would expect/As might have been expected
[8]
~自体(じたい) ~(in) itself
触れる(ふれる) touch/mention/refer to
魅力(みりょく) charm/appeal
甘酸っぱい(あまずっぱい) sweet and sour/bittersweet
恋心(こいごころ) one's love/awakening of love
~はもちろんのこと not to mention~
意図(いと)する intend/aim
傷つける(きずつける) injure/hurt/wound
後悔(こうかい) regret/remorse
思い(おもい) thought/love/affection/feelings/emotion
もどかしい feel irritated/be impatient/frustrating
衝突(しょうとつ) collision/crash/conflict
不安(ふあん) uneasiness/anxiety/worry
希望(きぼう) hope/wish
青春(せいしゅん) one’s youth/adolescence
詰まる(つまる) be packed/be filled
訴えかける(うったえかける) make an appeal
方(かた) person[polite form]
重ねる(かさねる) put something on another
追体験(ついたいけん)する experience~vicariously/experience the joys and sorrows of others as if they had been my own
英訳(えいやく) English translation